為替市場は週明け米朝首脳会談に沸きましたが、シンガポール勢を始めとして一部のイベントドリブン系の投機筋と思われる向きが東京タイムに思い切り買い上げたものの合意内容は事前想定内にとどまったことから110.500円を超えてドル円が上伸することはなく、いよいよFOMC待ちという相場状況になっています。そんな中で5月後半に深い痛手を負ってしまったのが米国の10年債市場で、今もまだ完全に回復できていないことが米国10年債金利の頭を抑える形になっており、ドル円も債券金利との相関で上昇できない現状が継続中です。
■イタリア国債の瞬間的暴落で痛手を受けた米系ファンド勢
ご存知のように米国10年債は5月中盤に3.1%を上回る利率を記録し、これを見た多くの米系ファンドが米10年債をショートで売り持ちする形となり、そのショートの枚数は過去30年でも最大のボリュームに達することとなりました。6月FOMCではすでにこの時100%の利上げ確率で市場は完全に追加利上げを織り込んでいましたから今後さらに金利が上昇すると見たファンド勢はかなり多かったものと思われます。しかしこうしたビッグショートの状況にいきなり水を差す結果となったのが5月末に突然大きな問題となったイタリアの政情不安だったのです。そもそもこのイタリアの政情不安は今年3月に実施した選挙結果に基づく連立政権樹立の困難さを背景としたものですから、5月の後半になってそのリスクが急浮上するのは本来おかしな話だったのですが、政権樹立失敗をうけてイタリアと名のつく株も債券も大きく売り込まれ、さらにドイツ債や米国債にFLY TO QUALITYという形で資金が多く逃避したことから、米10年債はいきなり2.7%台になるまで買いこまれ、その間にショートにしていたファンド勢は莫大な損失を抱えることとなってしまったのです。
Data CME
上の表は6月8日にCMEから発表されたIMMの10年債ポジションの状況ですが、この時点では前週から11万枚以上のショートに買戻しが入り、かなりの損切がでた模様ですが、まだまだ売り持ちは多く、かなり広範なファンド勢がいっぺんには処分できなかった10年債をその後も価格が下落しはじめると少しずつ処分していることがわかります。多くのファンドは含み損の状態で実損として確定できたところは限定的であることから金利が上昇しはじめると今後もそれなりに売りの買戻しがでそうな状況で、これを見る限り米10年債金利が再度3%を超えて上伸できる可能性がかなり低いことがわかります。実際6月に入ってからも10年債金利は3%手前で頭を抑えられている状況で、多くのファンド勢が米10年債の買戻しを継続中であることが窺われます。今回の米債の金利急落劇では初代債券の帝王を呼ばれたビルグロースもドイツ債のショートでかなりの額の損失を被ったと言われており、債券市場に精通する投資家でも大きく見誤るといった状況に陥ったことがわかります。
Data Investing.com
債券市場は為替市場に比べてもしの規模が大きく、金利がちょっと移動したたけでも市場への影響はかなり大きいものになることから今回の米債金利の大幅下落では想像以上に損失を抱えている市場参加者が多いものと思われます。こうした損失が顕在化した場合、儲かっているほかの資本市場で利益確定をして穴埋めをするケースも多くなることから6月は株や商品市場などほかの市場の動きの変化にも注意が必要となりそうです。
こうしたことからドル円は5月につけた111.400円が当面の高値となった可能性はかなり高く、当面はこれを超える動きにはならないことが予想され始めています。すでにリーマンショックから今年9月で10年を迎えるわけですから株式市場を中心とした相場の大幅下落はいつ起きても不思議ではありませんが、早いタイミングでショートを仕込み過ぎるととんでもない踏み上げに見舞われることのリスクを改めて感じさせられた出来事だったと言えそうです。